ヒマラヤ見物

[#7字下げ]一二、ヒマラヤ見物[#「一二、ヒマラヤ見物」は中見出し]

 筆談終日、夕陽に及ぶ。ヒマラヤの高峰たるカンチェンジュンガ(Kanchenjunga)は当地をさることわずかに四十五マイルなれば、朝夕対観するを得るも、余ここに着してより、毎日白雲の中に深く潜み、さらにその風姿を示さず。よって余、歌をもって諷す。[#ここから2字下げ]喜麻拉亜よ印度貴女《ヒンズーレディー》のまねをして雲の衣で姿かくすな[#ここで字下げ終わり] インド教にありては、上流の婦人は一般に衣をかぶり、幕を張り、決してその姿を人に示さず。ゆえに、かくよめるなり。その夜より雲ようやく晴る。よって即夜旅装を整え、翌朝三時寓居を発し、月をいただきて行くこと六マイル、タイガーヒル(Tigerhill)山頂に達す。ときに午前六時ごろなり。この山は直立およそ九千フィートくらいにして、その遠望最も佳なり。これに達する途上、夜まさに明けんとして、日いまだ昇らず。東天一帯ようやく紅色を呈し、四面なお暗黒の間にありて、ひとり旭光の遠く雪峰に映じて、銀色を反射するありさまは、実に筆紙のよく尽くすところにあらず。河口氏、和歌をもってその一斑を模して曰く、[#ここから2字下げ]喜麻拉亜の虎が岡なる朝ぼらけひかる雲間に雪山を見る[#ここで字下げ終わり] 余、幼学詩韻的詩をもってこれに和す。[#ここから2字下げ]鶏声残月暁天晴、霞気浮紅日欲生、四面冥濛人未起、雪峰独帯旭光明。(鶏の声となごりの月に夜あけの空は晴れわたり、霞に紅の色をにじませて日は昇ろうとする。あたりはまだ暗くしずんで人々はねむりについており、雪をこうむる峰だけが朝日の光を受けてあかるくかがやいている。)[#ここで字下げ終わり]

— posted by id at 06:45 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.1894 sec.

http://centaurus1995.com/