日本郵船は十三マイルを走る

 この郵船は、余が所乗の郵船とともに、同じくマルセイユを指して西航せるも、速力の相違により、二、三時間の後には、はるかに後方の雲波中に埋没して、見ることを得ざるは遺憾千万なり。英国郵船は一時間十六マイルを走り、日本郵船は十三マイルを走る。後者が競走して敗をとるはもちろんなり。 インド出発後、船中の乗客はみな白人種にして、他人種は黄色人種たる拙者一人のみなれば、自然の勢い、白人種に圧倒せらるる傾向あり。ゆえに余、さらに一句をよみて自ら慰む。[#ここから2字下げ]白金の中に独りの黄金哉[#ここで字下げ終わり] 十五日、午後イタリアの山脈を望み、夜に入りてメッシナ海峡を通過す。ときに晩望の詩あり。[#ここから2字下げ]峡間船欲入、山影落闌干、雲嶂晩来霽、満天雪色寒。(メッシナ海峡に船はさしかかれば、山の影は船の闌干にうつる。雲のかかった山の峰は夜になってはれ、空一面に雪もようをもたらして寒ざむとしている。)[#ここで字下げ終わり] 十六日、少しく風波あり。午後、サルディニア海峡にかかる。晩来、風ますます強く、波ますます高し。余、狂句をつづる。[#ここから2字下げ]地中海寒気の為に癪起し夜昼かけて怒鳴りつゞける[#ここで字下げ終わり]

[#7字下げ]一八、マルセイユからジブラルタル海峡をぬけ北走す[#「一八、マルセイユからジブラルタル海峡をぬけ北走す」は中見出し]

 十七日、天曇り風寒し。午前十時、フランス・マルセイユに着港し、ここに滞泊す。その夜中の実景は詩中にて見るべし。[#ここから2字下げ]

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