山自蒼蒼水自清

リスボンの灯台今は暗らけれど昔しは四方の海を照せり山自蒼蒼水自清、灯台聳処是葡京、星移物換人何去、失却往年航海名。(山はおのずから青あおとしげり、水もまたおのずから清らかに、灯台のそびえたつところが葡《ポルトガル》の首都である。星移り物かわる歳月に人々はいずくにか去り、いまや往年の航海の名声も失われてしまった。)[#ここで字下げ終わり] 二十二日、曇晴、ときどき驟雨を見る。わが北国の晩秋に似たり。この日より、風浪をもってその名高きビスケー湾に入る。天気冥濛、勁風高浪、船体の傾動はなはだし。[#ここから2字下げ]高浪蹴天船欲沈、長風捲雪昼陰陰、大人皆病児童健、可識無心勝有心。(高い波は空にとどかんばかり打ちよせて船を沈めようとし、遠くより吹きよせる風は雪をまじえて昼なおくらい。船中のおとなはみな船に酔い、子供のほうが元気であるのは、無心であることがなにごとかを考える心にまさったと知るべきであろう。)[#ここで字下げ終わり] 二十三日午後四時、英国南海岸に接見す。[#ここから2字下げ]雲烟断処陸端連、知是大英南海辺、十五年前旧遊地、再来重見亦因縁。(雲ともやの切れるあたりに陸地のはしが連なる。これこそ大英帝国の南の海辺なのである。十五年前のかつての旅遊の地である。再び来てかさねてまた因縁を思う。)[#ここで字下げ終わり] 五時、プリマス港に入る。七時、再び港を発し、ロンドンに向かいて走る。気候なお暖かなり。この間、大小の船舶迎送頻繁なり。[#7字下げ]一九、ロンドン着、二週間余り滞在す[#「一九、ロンドン着、二週間余り滞在す」は中見出し] 二十四日、午後一時、テムズ河口に入る。三時ドックに着し、税関の検閲あり。ただちに汽車に転乗し、夜に入りてロンドン市に着す。寓所を公使館の近街に定む。これよりロンドンにとどまること二週余、もっぱら倹約を守る。[#ここから2字下げ]

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