欲使国光輝極東

 余、欧米の社会を見ざること、ここに十有五年なり。今や再びロンドンに遊び、日夜見聞するところ、大いに余を奮起せしめてやまざるなり。よって所感を賦す。[#ここから2字下げ]欲使国光輝極東、鞠躬須尽赤心忠、泰西文物君知否、都是千辛万苦功。(日本の国を極東の地に光輝あらしめんと欲すれば、つつしみ深い態度でまごころから忠を尽くさなければならない。西洋諸国の文物について君は知っているのか、それとも知らないのか、すべてはあらゆる辛苦のうえでなしとげられたものなのである。)[#ここで字下げ終わり][#7字下げ]二〇、哲学館教員免許取り消しの報あり[#「二〇、哲学館教員免許取り消しの報あり」は中見出し] これよりさき、すなわち去月三十日、東京より飛報あり。曰く、十二月十三日、官報をもって文部省より、本館倫理科講師所用の教科書に関し、教授上不注意のかどありとて、教員認可取り消しの厳命あり云云。余これを聞き、国字をもって所感をつづる。[#ここから2字下げ]今朝の雪畑を荒らすと思ふなよ生ひ立つ麦の根固めとなる苦にするな荒しの後に日和あり火に焼かれ風にたをされ又人に伐《き》られてもなほ枯れぬ若桐伐ればなほ太く生ひ立つ桐林[#ここで字下げ終わり][#7字下げ]二一、バルレー村に転住す[#「二一、バルレー村に転住す」は中見出し] 十二日より英国地方の実況を視察せんために、ロンドンをさること北方二百マイル、リーズ市近在バルレー村に転寓す。 二月十二日、英国北部バルレー村に転住せし以来、もっぱら民間の風俗、習慣、教育、宗教の状態を視察し、大いに得るところあり。この北部はリーズ町を中心とし、英国中最も工業の盛んなる地にて、したがって豪商紳士多く集まり、バルレー村のごときは、山間の渓流にそいたる一寒村に過ぎざるも、水力を応用して製毛の一大工場を開き、毎日七百名以上の職工これに出入し、職工に与うる俸給だけにても、一カ月二千五百ポンド(わが二万五千円)に上るという。一村これがために富み、かつにぎわい、やや一都府のごとき盛況あり。この地をさること二、三マイルにして、上流にはイルクレー町あり、下流にはオートレー町あり。いずれもあまたの工場ありて、盛んなる工業地なり。これより七、八マイルを離れてブラッドフォード町あり。この地方の物産の集中する所なり。また、これより十三マイルを隔ててリーズ市あり。これ、英国中第五番に数うる大都会なり。余、バルレー村滞在中これらの町村を巡見し、学校、工場、寺院等、その主なるものはたいてい一覧するを得たり。また、地方の豪商紳士に接近し、中流以上の家庭および生活の一斑をも実視するを得たり。これと同時に貧民の住家を訪い、下等労働社会の状況をも目撃するを得たり。そのいちいちは二、三紙のよく尽くすところにあらざればここに略し、ただ滞在中ことに感触せるもの、これを言文一致的の詩または歌につづりおきたれば、拙劣をかえりみず、左に録して紀行に代えんとす。 バルレー村につきてよめる歌は左のごとし。[#ここから2字下げ]日は寒く風は荒びし其中にいと煖き人心かな[#ここで字下げ終わり]

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