西洋料理

プツデング次の代りはシチウなり[#ここで字下げ終わり] 西洋料理の中に、ヨークシャー・プディングと名づくるものとアイリッシュ・シチューと名づくるものあり。よって、かくよめるなり。午後十時、フリートウッド(Fleetwood)港より乗船す。海上、風静かに波平らかなり。[#ここから2字下げ]海風吹断月如環、望裏送迎英北山、汽笛一声驚客夢、輪船已在愛蘭湾。(海の風はとだえて月が輪のような姿をみせ、これをはるかにみるうちに船は英国の北の山を送り迎えてすすむ。一声の汽笛が船客の夢を驚かして、輪船はすでに愛蘭《アイルランド》のベルファスト湾の内に入ったのであった。)[#ここで字下げ終わり] 船中にありて過般の哲学館事件を想起し、感慨のあまり、左の七絶をつづる。[#ここから2字下げ]講堂一夜為風頽、再築功成復化灰、遺恨禍源猶未尽、天災漸去又人災。(講堂は一夜にして風のために倒壊し、再び築いて竣功したとたんに、またしても火災にあって灰となった。忘れられぬ恨みをいだくも、禍の源はなお尽きず、天災がようやく去ったかと思ったのであるが、またしても人災(哲学館事件)が起こったのだ。)[#ここで字下げ終わり] 余おもうに今回のことたるや、人災と名づくべきものならんか。果たしてしかりとせば、風災、火災、人災の三災に逢遇せりといわざるを得ず。[#7字下げ]二三、ベルファストの実況[#「二三、ベルファストの実況」は中見出し] 十三日午前五時半、汽船すでにベルファスト(Belfast)湾に着す。寓所を同市ユニバーシティー街(University Street)に定む。その街にアイルランド大学の一部(Queen's College)ある故にその名あり。大学教授アンダーソン氏と同居せり。アイルランドはイングランド、スコットランド、ウェールズの三州と連合して一大王国を成せるも、人情、風俗すべて英国と異なり、自然に別国の形勢あり。その市街の大なるものを挙ぐれば、ダブリンを第一とす。これアイルランドの首府なり。そのつぎをベルファストとす。これ商工業の中心にて、近来、年一年より繁栄に進むという。工業中、当地の特産は麻布なり。[#ここから2字下げ]十万人家工又商、街車《トラム》如織往来忙、煙筒林立凌雲処、都是績麻製布場。(十万の人家は工と商に従う、街車《トラム》は織るように往き交って忙しい。煙突は林のごとく立って雲をしのぐほどである。すべてが麻布を製造する工場なのである。)[#ここで字下げ終わり] もって当地の盛況を見るべし。

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