二個の宗教大学あり

 学校は国立大学のほかに二個の宗教大学あり。一つはメソジスト宗に属し、一つはプレスビテリアン宗に属す。そのほか中学数校あり。なかんずくキャンベル・カレッジ(Campbell College)のごときは、実に建築の広壮なる、庭園の広闊なる、大学をしのぐの勢いあり。余のこの校に至るや、時鐘昼食を報ずるに会し、校長の案内に応じ食堂に入れば、数十の教員と数百の生徒[#「生徒」は底本では「生従」]、一同卓を同じくして食を喫す。食品三種あり。曰く肉汁、曰く温肉、曰くポテトなり。食事の傍観もすこぶる興味あるを覚ゆ。この校の規則として、通学生も昼食料を納めて、寄宿生と同様に食堂にて喫飯するなり。 大学はもちろん、市内の学校中名あるものは、みな授業および校舎を参観せり。市外数里離れたる所に、アーマー(Armagh)中学およびリズバーン(Lisburn)中学、ともにその名高きをもって一日訪問せり。リズバーン中学内には、生徒のために構内に一宇の遊泳場を設け、冬時は蒸気をもって水温を高め、四時校内にて遊泳の自在を得る設備あり。そのほか学校参観に関する所感は、いちいち記述するにいとまあらず。[#7字下げ]二四、ロンドンデリーに遊ぶ[#「二四、ロンドンデリーに遊ぶ」は中見出し] 三月十七日はセント・パトリック(St. Patrick)の記念日なりとて、アイルランド中みな諸業を休みて寺院に詣す。余、当日同州の古都ロンドンデリー(Londonderry)に遊ぶ。ベルファストをさること百数十里なり。その地、山に踞し湾に枕し、風景すこぶる佳なり。市街を囲繞せる城壁今なお存し、四方に城門ありてこれより出入す。城内には壮大の寺院数個、いずれも老若男女群れを成す。なかんずく旧教の本山には、愚夫愚婦山のごとくまた海のごとく集まり来たり、感泣の涙にむせびおるものあり。もしアイルランドの名都を日本に比すれば、ダブリンは東京、ベルファストは大阪、ロンドンデリーは京都に当たるべし。余、ロンドンデリーに着するや、楼台高くそびえ、宛然大本山のごときものを見、その堂内に入れば、こは寺院にあらずして税関なるに驚けり。これ、余が失策談の一つなりと思い、図らずも、[#ここから2字下げ]失策を見る人もなし独り旅失策をしても甲斐なし独り旅[#ここで字下げ終わり]との句を吐き出だせり。当夕はさらに北海に沿って車行し、ポートラッシュ(Portrush)港に泊す。同港は海峡を隔ててスコットランドと相対す。[#ここから2字下げ]北游一夕泊津頭、愛海風光慰客愁、雲水渺茫望窮処、青山一髪是蘇州。(北のかたに遊び、その夜は港に宿泊した。愛《アイルランド》の海の風景は旅人の思いを慰める。雲と水ははてしなくひろがり、さらにその果てをみるに、青い山がかすかに見え、その地は蘇州《スコットランド》である。)[#ここで字下げ終わり]

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