ジャイアンツ・コーズウェーに遊ぶ

[#7字下げ]二五、ジャイアンツ・コーズウェーに遊ぶ[#「二五、ジャイアンツ・コーズウェーに遊ぶ」は中見出し]

 翌十八日、快晴。ポートラッシュより電車に駕し、世界の地誌上その名最も高きジャイアンツ・コーズウェー(Giant Causeway)に遊ぶ。その地海岸にそい、およそ一マイルほどの間、一定の角石をもって天然の庭を築き、造化の妙を示せり。その石、あるいは五角なるあり、あるいは六角ないし八角なるあり、直径一尺五寸ないし二尺余にして、その数幾万なるを知らず。上下となく左右となく、一面に整列排置し、あたかも人工をもって庭石を敷きたるがごとし。俗説に、古来この地に一大巨人棲居したる遺蹤なりといい、今現にその洞窟なりと伝うる所あり。これをジャイアンツ・コーズウェーと名づけしは、その怪談にもとづく。余これを訳して、巨人庭石という。天工の巧妙なるに感じて、[#ここから2字下げ]天工錬石造奇形、絶妙使吾疑有霊、西俗所伝君勿笑、古来呼称巨人庭。(自然のたくみは石をねりあげて、すぐれた形を造った。その絶妙なることは私に神霊のあることを思わせる。西欧の俗説に伝えられることについて君笑うことなかれ、古来、ここは巨人の庭と呼ばれているのだ。)[#ここで字下げ終わり] この近海の風景は、紀州海岸の風景に髣髴たるところ多し。いたるところ奇石怪巌しかも絶壁千百丈、シナの赤壁も三舎を避くる勢いなり。これに加うるに、北海の高浪巌石を打ち、激して泡となり、飛んで雪となり、北風これを吹きて片々空中に舞わしむ。あたかも綿片の天空に散ずるがごとし。また奇景なり。一見すこぶる壮快を覚ゆ。当夕、ベルファストに帰る。これより両三日を隔ててベスブルック(Bessbrook)村に遊ぶ約なりしも、風邪のためにこれを果たさざるは遺憾なり。同村は相応に戸数を有する一部落にして、全村クエーカー宗の信徒なり。村民の品行勤倹、実に一国の模範となれり。アイルランド中にて、酒店なく質屋なく巡査の必要なきは、この一村のみなりという。かくのごときは、文明的尭舜の民というべし。[#7字下げ]二六、ダブリンの実況[#「二六、ダブリンの実況」は中見出し] 三月二十八日、朝ベルファストを去り、車行およそ百マイルにして首府ダブリンに着す。途上一詠あり。[#ここから2字下げ]鉄車百里向西倫、野外風光未見春、遥憶故国三月末、東台山下賞花人。(汽車で行くこと百里、西のロンドン(ダブリン)に向かう。野外の風景にはまだ春の気配も見えない。はるかに故国の三月の末を思い起こせば、上野寛永寺の山下に花を賞でる人がいるであろう。)[#ここで字下げ終わり]

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